2019年12月11日

無題私が昔住んでいた地域でのこと

その地域は冬になると積雪があるために、住んでいる人々は運動不足になりがち
室内でできるスポーツは割と盛んだった
運動しない人はそれでも室内で運動しなかったが

その地域は、体育館で行う「綱引き」が結構盛んだった
綱引きと聞いて、小学校や中学校の体育祭で行われる父母参加の種目を想像する人も多いだろう
「オーエス オーエス」と意味不明のかけ声をかけるあの綱引き
が、私が冬期に体育館で見た綱引きはそれとは別のスポーツだった


体育館の床の数十センチ上にピンと張られた綱を引きあう
その綱を引く人は、これまた床の上数十センチ地点で、仰向け状態で両足をピタリと体育館の床に付けたまま、ほとんど床に平行となって体を傾けて綱を引きあう

強いチーム同士の戦いになると、勝負は持久戦 ほとんど引き手は動かず、相手チームの消耗を待つ
待つ時間でも、かなりの力はかけている

私がいた職場の有志(物好き)が綱引き競技の存在を知って、地元の強豪チームの指導を仰いで生意気にも大会に参加していた
大会では、ほぼ秒殺で勝負は終わっていた もちろん負け
が、練習は素人向けとは言えキツかった

二時間程度の練習後には、握力はほぼ残っていなかった

ある日、職場に新人がやって来て、来たすぐに「綱引き」の練習に参加させた
新人は男性で、名をKという
Kはもとより運動経験はあまりなかった
わけもわからないまま、冬の体育館での綱引き練習に強制参加させられたKは次第に無口になっていった

練習終盤に、Kの様子がおかしいので、声をかけてみた
視点の定まらない状態のKはこう言った「いやぁ さっき目を閉じたら、細い川のようなものが見えたんスよ 川の向こうに死んだ婆ちゃんが立っていて、手招きしてました
私はKに言った「川を渡ってはいかんぞぉ こっちの世界に戻って来れなくなるぞぉ

幸いKは川を渡ることはなく、こちらの世界に踏みとどまり、残り数十分の「地獄」を味わった
この世にて 綱引き練習という名の地獄を


(04:30)

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